膨張を続ける日本の社会保障費。
この巨大なシステムを維持し、持続可能性を高めるためには、もはや「聖域なき医療費の削減」は避けて通れない課題です。
その削減対象の典型例として、しばしば槍玉に挙げられるのが「エンシュア・リキッド」などの経口栄養剤です。

「医療の形をした食事」とも言えるこれらの製品に、膨大な公費を投じ続けるべきなのか……。これには、極めてもっともな疑問が投げかけられています。

栄養剤を削るなんて、お年寄りに『もう飯を食うな』って言ってるようなもんじゃないの? そんなのひどすぎるよ!

落ち着けよ、クソニートくん。感情論は一度ゴミ箱に捨てて、数字の話をしよう。この問題を議論しようとすると、必ず返ってくる反論があるんだ。
この栄養剤というなの食事は公的保険が適用され、利用者の低栄養限界老人は1割負担で購入することができます。
もちろん、残りの支払いは「会ったこともない、他人の下の世代」です。
この栄養剤を保険適用から外すべきだと主張すると、しばしば以下のような反論が展開されます。
すなわち
「栄養剤を処方すれば入院や合併症が減り、トータルの医療費はむしろ抑制される!」
この「科学的に正しいのかはわからないが、少なくとも道徳的には正しそう(?)な意見」が壁となり、栄養剤の保険外しといった抜本的な改革は、これまで困難とされてきました。
しかし、果たしてその主張は本当なのでしょうか? 栄養剤は、本当に「魔法の節約ツール」として機能しているのでしょうか? そして、それを私たちの血税である「公的保険」で賄うだけの科学的正当性はあるのでしょうか?
5つの論文を弾丸として、その欺瞞と真実を白日の下に晒します。
この記事を書いた人 / わたしの立場


はじめまして。「論文解説お兄さん」を自称している、Murasaki(むらさき)だ。

友人兼水先案内人のニートです!
はじめまして。この記事を書きました Murasakiと申します。
論文を用いて、少しでも人生が明るくなるようなお手伝いをする情報発信をしています。
マルボロの赤を愛煙する喫煙者です。
詳細につきましては、以下の記事をご確認ください。
このブログでは、ほとんどの場合論文の引用や信頼できる公的機関等が発表した統計データの一次情報を引用して、一貫した主張を展開するスタイルを徹底しています。
ちまたに流れる「お気持ち表明」的な三流ハウツーとは一線を画した内容になっていると思います。
また、サブスクリプションもはじめました。毎月「コーヒー1杯くらいなら奢ってやるか」といった優しい方向けです。
ぜひ、ご支援いただけると幸いです🥺

また、社会保障に関しては 私の立場をはっきりさせるのが筋と考え、私の考えを先に述べておきます。

結構過激なこと言ってない?

「日本がクラッシュして、高齢者は一切医療を受けられなくなり 道に捨てられる」よりよっぽど優しい、手心満載の意見だ。
病院のレジでは「勝利」でも、社会の財布では???
医療費の適正化や保険適用の見直しを議論しようとすると、必ずと言っていいほど
「栄養剤は医療費を抑制する投資だ!」
という反論が飛んできます。
先に言っておくと、そんな小賢しいこと言われても ちょっと考えれば
「虚弱限界老人を栄養剤で延命したとしても、無駄に長生きする時間が増えてその分コスト増だし、結局氏の間際にめっちゃ金がかかる」
と気づくと思うんですが…

まぁMurasakiくんの意見もわかるけどね。
実際にはどうなの?

いくつか研究を紹介しよう。
「医療費が抑制される!」派が主張の根拠として持ち出してくる、いかにも「小賢しい」研究結果は、おそらく以下のようなものでしょう。
2012年の研究を紹介します。オランダの在宅高齢者を対象に、栄養剤(ONS)を使用することで、入院費用の削減などにより年間約1,300万ユーロ(約18.9%)の医療費を節約できると試算しています。
Using ONS for the treatment of DRM in community dwelling elderly, leads to a total annual cost savings of € 13 million (18.9% savings), when all eligible patients are treated.
The budget impact of oral nutritional supplements for disease related malnutrition in elderly in the community setting
栄養剤の治療期間や低栄養(DRM)の有病率を含むすべてのパラメータに対して、感度分析(前提条件を変えた検証)することで調べられました。
また、この研究で行われた感度分析の仮定は、栄養剤(ONS)の追加費用(5,700万ユーロ)を再入院や入院の減少といった他の医療費の削減分(7,000万ユーロ)によって十分に賄うことができると主張しています。

18.9%も削減できるなら、もう全部の食事を栄養剤にすればいいんじゃないの?

クソニート、君はシミュレーション上の『計算通りに動く老人』を信じすぎだ。そんなに都合よく物事が運ぶなら、日本の社会保障はとっくに黒字化しているよ。
さらに、他の大規模なシステマティックレビューでは、次のような主張がなされています。
2016年の研究を紹介します。在宅や介護施設における栄養剤(ONS)の使用は、入院を16.5%減少させ
Meta-analysis indicated that ONS reduced hospitalisation significantly (16.5%; P < 0.001; 9 comparisons)
A systematic review of the cost and cost effectiveness of using standard oral nutritional supplements in community and care home settings
ONS(経口栄養補助食品)の使用期間が3ヶ月未満の9つの研究/経済モデルでは短期的には約9%のコスト削減に繋がりますが、3ヶ月以上の長期使用では統計的な有意差が見られなくなることを発見しました。
In 9 studies/economic models involving ONS use for <3 months, there were consistent cost savings compared to the control group (median cost saving 9.2%; P < 0.01). When used for ≥3 months, the median cost saving was 5% (P > 0.05; 5 studies).
A systematic review of the cost and cost effectiveness of using standard oral nutritional supplements in community and care home settings
入院の減少(16.5%)は顕著ですが、死亡率の低下については統計的に有意ではありませんでした。
and mortality non-significantly (Relative risk 0.86 (95% CI, 0.61, 1.22); 8 comparisons).
A systematic review of the cost and cost effectiveness of using standard oral nutritional supplements in community and care home settings
また、介護施設(ケアホーム)での研究は結論がバラバラであるとされています。
この研究は9件の文献(31のコスト分析)を統合した系統的レビューです。
このように、少なくとも短期的な文脈では医療費を節約する可能性が示唆されています。
さらに、同じような研究が日本国内のレセプトデータを対象にして行われているのも事実です。
これらのデータを突きつけられると、一見「栄養剤は節約の味方」であるかのように錯覚してしまいます。確かに、退院後の特定の期間に絞り、再入院という「目に見える高額なバグ」を防ぐことができれば、その瞬間の数字は綺麗に整うでしょう。
短期的・局所的には、彼らの主張は正しいのです。しかし、ここには社会保障の持続可能性を議論する上で、決定的に欠けている視点があります。
それは、「栄養剤を与えて延命させた後に待っている、より巨大なコスト」という、冷徹な生存の経済学です。
ここから先は、さらに権威ある医学雑誌Lancetに掲載された学術論文を含む4報を紹介し 栄養剤を虚弱老人に栄養剤をブチ込むことで、本当に医療費が抑えられるのか考えてみます。

ここから先は真の論破を魅せてやろう。
記事単体だと¥1,000〜に設定してあるが、サブスクリプションなら¥500で読めるようにしてある。

試筆頑張るから、コーヒー1杯くらいご馳走してやるか!って方はぜひ♡
社会保障に蠢く「道徳的優位性」というクソみたいな欺瞞、その本質を目撃したい方は、ここから先の扉を開くのです…



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