2008年に世界最高峰の医学誌『New England Journal of Medicine (NEJM)』に掲載されたジョシュア・コーエン(Joshua T. Cohen)らの研究を紹介します。
「予防医療は医療費を削減する」という政治的スローガンを網羅的な費用対効果分析で検証し、実際に医療費削減につながる予防医療はごくわずかである実態を明らかにしました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文タイトル | Does Preventive Care Save Money? Health Economics and the Presidential Candidates |
| 著者 | Joshua T. Cohen, Peter J. Neumann, Milton C. Weinstein |
| 掲載誌 | *New England Journal of Medicine*(2008年) |
研究チームは、査読付き学術誌に掲載された599件の費用対効果分析(CEA)論文から、医療サービス(予防医療および治療的介入)に関する1,500件以上の費用効果比データを網羅的に抽出・比較分析しました。
分析の結果、純粋に医療費削減(コスト削減)をもたらした予防医療サービスは全体の20%未満にとどまることが判明しました。残りの8割以上の予防医療は、健康アウトカムを改善するものの、全体としての医療支出を増加させていました。

研究では、予防医療が医療費を削減できない構造的要因として「ごく少数の発症を防ぐために、発症しない膨大な数の健康な集団に対して検査・投薬・指導などのコストを投じ続けなければならない点」を挙げています。予防介入自体のコスト、スクリーニングに伴う偽陽性への二次検査コストなどが積み上がり、予防によって回避された将来の治療費を容易に上回るためです。
この研究は、「予防医療の推進によって国の医療費を削減できる」という主張は経済学的な根拠を欠いており、大半の予防医療はコストを削減するのではなく「追加の資金を投じて健康を買う行為」に過ぎないという冷酷な事実を実証しています。